第十六回 『テレビのツボ』開戦前夜


一カ月半ぶりの更新です。12月は一度も更新できませんでした。これは吉村智樹の怠惰のみが原因です。
ぜんじろうさん、連載を楽しみにしてくださっていた読者の皆様、本当に申し訳ありません。
■「ぜんじろう、いまは吉本を辞めるな!」
――
前回は、せっかく島田紳助さんが作ってくれた東京進出への途が、思いもよらぬ方向から妨げられてしまった、というお話を伺いました。その後はどのようにお過ごしだったのでしょうか。
ぜん
大阪で、深夜のラジオ番組をコツコツと……という感じだったですね。*MBS『ヤングタウン』とか。
――
ヤンタン、やってらっしゃいましたよね。嘉門達夫さんと。
ぜん
そうです。嘉門さんがガーッって売れてきてはった時でね。ヤンタンだけやなしに、嘉門さんのネタを書かせてもらったり、作詞をやらせてもらったりもしてました。
――
そうだったんですか。
ぜん

『FUTAMATA』って曲があるんですけど、あれ、作詞は僕なんですよ。クレジット見てみてください。あと「♪ちゃらり〜、鼻から牛乳〜」っていうのも、僕が考えたんです。嘉門さんに3万円で売ったんです。

――
そうだったんですか! 大ヒットフレーズじゃないですか。不勉強で申し訳ない。ぜんぜん知りませんでした。
ぜん
そんなこともあって、嘉門さんが在籍するアミューズから「ぜんじろう、ウチに来えへんか?」と誘いがあったんです。「ぜんじろう、カラーが吉本とちゃうんとちゃうか? ハマッてないのとちゃうか?」と。
――
そんなことがあったんですか。それで、どのように答えたんですか?
ぜん
やっぱり、すぐには返事できなかったですね。「吉本にハマッてないのとちゃうか?」って言われて、「あ、そうなんや。ハマッてないんや」って気付いたり(笑)。
――
複雑な気持ちになりますよね。
ぜん
ただ、確かに僕はその頃、吉本にはぜんぜんハマッてなかったんです。マネージャーもついてない状態で、ラジオの仕事も吉本経由じゃなく、直接僕のところに連絡が来てたし。ひとりでやってるのとどうちゃうねん、いう感じやったから。
――
アミューズは音楽系のアーティストがたくさんいらっしゃいますし、ぜんじろうさんもラップをやってたから、気持ちが揺れ動きますよね。
ぜん
ええ。そんでヤンタン終わりのタクシーのなかで、構成の*がっしゃんに、この話を言うたんです。そしたら、がっしゃんが「ぜんじろう、いまは吉本を辞めるな! 待っとけ!」と。
――
「待っとけ!」とは、どういう意味なんでしょうか。
ぜん
がっしゃんが言うには「小耳に挟んだんやけど、毎日放送で『ぜんじろう、ええんちゃうか?』っていう話が出てる。*チロリンがアンテナ張ってる。なんか動きがありそうや。そやからいまは吉本におったほうがええ」と。チロリンさんがライブで僕のビデオ漫才を観てくれはったらしいんですね。
――
それはいい話じゃないですか!
ぜん
ところがね、その後が「……っていう噂やで。そういう話があるっていう噂や。ま、よう知らんけどな」ってごまかしはるんです。まるで花紀京さんの「俺、そんなこと言うてへんで〜」みたいに。
――
「どこでも探したらええ。でもな、ここだけは探すなよ」みたいな(笑)。でも、口ぶりからして、確実になにか掴んでそうな感じですね。
ぜん
そしたら今度はね、僕の住んでた桜川のマンションに毎日放送から直接電話がかかってきたんです。増谷さんとチロリンさんから。「ぜひとも、ぜんじろうに会いたい」と。
■抜擢の理由は「ヒマやったから」
――
おぉ! プロデューサーとディレクター直々じゃないですか。
ぜん
そんで、「はい、わかりました」と。呼び出されたんが茶屋町の毎日放送の一階にある『スターシップ』いうレストランでね。
――
スターシップ(笑)。懐かしい〜。僕もよく行きました。「宇宙船をデザインした」という。どのへんが宇宙船か、ようわかりませんでしたが。
ぜん
オムライスがえらい水っぽくてね。普通のケチャップでええのに、トマトを水っぽ〜くしたやつで。ほんまに宇宙食みたいな(笑)。そんで、「なんでも食べてええよ」って言わはったから、そのオムライス頼んで(笑)。
――
なんか話を訊いていると、むしょうに食べたくなってきましたわ。宇宙食オムライス。
ぜん
こでね、増谷さんとチロリンさんに、いきなりこう言われたんです。「ぜんじろうにひとつ訊きたいことがある。お前は自分の笑いを突き通そうと思ってんのか?」と。これ、ものすごい問いでしょう? 困ったんですよ。「はい」言うてええもんやら、「そんなことないです」と答えるべきか。
――
そうですよね。相手がどっちを求めてるのか判らないですもんね。
ぜん
僕ね、そのへんの選択、よう間違えるんですよ(笑)。*増谷さんもチロリンさんも「どっちや!」って詰め寄る。当時はラジオ関西の『真夜なかん! かん!』で自分の笑いを貫き通して血みどろになってる頃ですわ。「はい」と答える自信はあったんです。
――
それで、「はい」とお答になったんですか?
ぜん
いや、その時ね、咄嗟に「これは、はっきりとした答をしたらあかん」って匂いを嗅ぎ取ったんです。それで「まぁ、貫き通してはいるんですけど、突き通してないといえば、突き通してないですね」と、なんやようわからん答え方をしたんです。どっちとも取れるようなね。
――
あえて曖昧に。
ぜん
そしたらね、おふたりが「実は、ぜんじろうで深夜番組をやろうと思ってる。それで、君の笑いはできれば突き通してほしくないねん。“ぜんじろうの笑い”は、この番組では置いておいてほしいねん」って言わはったんです。
――
え〜。それちょっとキツいですね。
ぜん
いやいや! むしろ僕は「求められてた答、そっちやったんや」と胸を撫でおろしましたわ(笑)。「はい」って答えんよかった〜、と。テレビの仕事なんて喉から手が出るほど欲しかったし。とにかく露出したかったから。
――
そうだったんですか。どんな番組をするかっていう説明はあったんですか?
ぜん
「深夜の*帯(おび)で、マニアックなニュース番組やりたい」って言わはってね。内容に関しては、正直まったくわかりませんでした。そもそも“帯”っていう意味すらわからへんかったし。「オビ? 僕が帯をやるんですか?」って。
――
ワハハ! 仮装大賞じゃないんですから、帯の恰好はせんでええでしょう(笑)。
ぜん
番組の内容や主旨については、詳しい説明はなかったですね。ただ、釘を刺されたのは「君を選んだのは、ヒマやからや」ということと「ディレクターもまだ素人みたいな連中やから、ぜったいに番組に口を出さんといてほしい」、このふたつ。僕が認められたのは、ヒマやったっていうことだけ(笑)。
――
でも、失礼ながらヒマで良かったじゃないですか。月〜金の帯番組を任されることになったんですから。
ぜん
……ところがですね。それから連絡がまったくなかったんです。「ああ、俺またなんかやらかしてしもうたんかな」と。この話はポシャったと思ってたんです。
――
それは不安ですよね。
ぜん
不安もなにも、そんな企画は、もうなくなったんやと思ってました。そしたら吉本から連絡があってね。「いますぐ毎日放送へ行こう」と。行ってみたら、「アシスタントは大桃美代子さん、藤岡久美子さんや。番組のタイトルは『テレビのツボ』や」って説明を受けてね。それ、放送開始の1日前だったんです。
――
え〜?! マ、マジっすか?!
ぜん
しかも番組の詳しい内容にまでは説明がなかったんです。いや、説明はあったんでしょうけど、そのへんの理解力が悪いっていうか。いったいなにをやる番組なのか、まったくわからなかったですね。
――
もしかしたら、ぜんじろうさんが変に意気込んだり作戦を立てこないよう、スタッフが敢えてギリギリまで説明をしなかったのかもしれないですね。
ぜん
そうかもしれないですね。
――
そして翌日、いよいよ生放送の『テレビのツボ』、本番を迎えるわけですが。
ぜん
はい。これがまたねぇ……。僕が……。
  
「ヒマやったから」。ただそれだけの、爽快なまでにシンプルな理由でいきなり生放送の帯番組を任されることとなった、ぜんじろう。わけもわからぬまま深い霧のなかに放り込まれた。ところがこの番組が、のちに関西の若者たちを熱狂させ、ぜんじろう自身の人生を大きく変えることになろうとは、本人はまったく想像だにしていなかった。1992年10月、ぜんじろうの身になにが起きたんでしょう。次回、いよいよ『テレビのツボ』放送開始! BGMは福山雅治の『スタート』でスタート。
 *MBSヤングタウン 1967年にスタートし、いまもなお続く関西老舗ヤング(!)向け深夜ラジオ番組。通称:ヤンタン。ルート33の堂土は有名ハガキ職人「笑福亭とっさん」だった。ぜんじろうは89年から99年までパーソナリティをつとめる。
*がっしゃん 放送作家グループ「有限会社オフィス元気」代表にして放送作家・劇作家・ギタリストである東野博昭のニックネーム。『お笑いスター誕生』では北野誠と「まこと&がっしゃん」で3週勝ち抜き。『おもしろサンデー』の「あたらしさん」。
*チロリン 現:毎日放送プロデューサー浜田尊弘のニックネーム。アミューズのマネージャー業、放送作家を経てディレクターに。類稀な話術とタレント性でラジオやテレビ番組にも多数出演。
*増谷さん 毎日放送プロデューサーの増谷勝己。ヤングタウン→『痛快! 明石家電視台』など明石家さんまと名コンビ。
(以上、人名については敬称略)
 
TEXT■吉村智樹 テープ起こし■泡の屑 撮影■おーしま2号 浪花の小池栄子
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