第十五回 島田紳助との邂逅
■「ぜんじろう、俺が言うたるわ」
――
前回はラッパーとして新たな活路を見出したというお話を伺ったのですが、本職の演芸のほうでは、どのような動きがあったんでしょうか。
ぜん
当時、東京で「吉本バッタモンクラブ」っていうイベントがあったんです。赤坂のシアターVっていうホールで、東京吉本の若手が出ていて。そこに「出してほしい」って言いに行ってね。自腹で東京まで、ネタをしに通ってました。
――
自腹でですか。お笑いの方では、まだ冷遇されていたんですね。
ぜん
そこで僕、ネズミ男の恰好で漫談したんです。ネズミ男の目線でゲゲゲの鬼太郎をボヤくっていう。そしたら、たまたま紳助さんが観に来てくれはってね。
――
島田紳助さんがですか? そういう小さいライブにも足を運ばれていたんですね。もともとお知り合いだったんですか?
ぜん

いえいえ! ちゃんとお会いするのも、お話するのも初めてで。そんでライブが終わったあと、紳助さんが「ぜんじろう、おもろい!」って言うてくれてましてね。芸人や社員の人たちを集めて、「お前ら、わからんか? なんでこの面白さがわからへんねん。東京の芸人もなにしとんねん。大阪から来たやつにやられとるやないか!」と切々と言うてくださって。

――
ファーストコンタクトでそこまで。
ぜん
そして紳助さんが、僕に「ぜんじろう、お前なんで自腹で来とんねん。なんか会社と揉めてんのか? それやったら俺が言うたるわ。木村さんに言うたるから」って、えらい親身になってくださって、もうこっちが驚きましてね。
――
そうでしょうね。予備知識なしで、その日のネタでそこまで熱くなりはるって。M−1グランプリを企画されたこともそうですけど、純粋にネタを評価する人なんでしょうね。
ぜん
ありがたいことでね。それで自信が出てきましたわ。その日だけじゃなく、あちこちで「ぜんじろう、おもろい」って言うてくださって。当時、東京吉本の支社長だった*河井さんにもプッシュしてくださって。そのおかげで、東京のテレビにも出られることになったんですよ。
――
おお! 一気に話が進みましましたね。それは、なんという番組ですか?
ぜん
『ナベちゃんミッちゃんのまねまね天国』(テレビ東京)っていう番組でね。芸人どうしがネタで対決して、5週勝ち抜くとチャンピオンになれるんです。これに、ネズミ男のネタで出してもらえることになったんです。
■ポール牧、指パッチン! 頭プッチン!
――
対決相手は?
ぜん
浅草キッドです。
――
うわ、いきなりえらい強敵に当たってしまいましたね(実際、浅草キッドはのちにこの番組で5週勝ち抜き、チャンピオンになっている)。
ぜん
ええ。ボロ負けしました。それはいいんですけど、そんときスタッフから「ネタだけでなく、ずっとネズミ男のキャラクターで演ってほしい」って言われてたんです。だからネタが終わったあともネズミ男口調のまま。審査員の高田文夫さんが寸評で「なんだかわかんね〜な〜」って言わはったときも、「うるせ〜よ〜ぉ」ってネズミ男のまま言い返したんです。
――
確かにネタだけではなく、ずっとネズミ男のままの方がキャラが立って、番組としてもより一層おもしろいですもんね。そのままずっとやってくれって言ったスタッフの狙いは、よくわかりますよ。
ぜん
そうです。狙いなんですよ。ところがね、審査員のポール牧さんがこれにえらい怒りはって。「貴様、目上の人にそんな口のきき方があるか! そんなこと言うもんじゃない!」ってキレはって。
――
あ、ポールさんは元ネタのネズミ男を知らなかったんだ!
ぜん
こっちは「ずっとネズミ男のキャラを崩すな」って言われてるもんやから、上から物を言う口調を途中でやめるわけにはいかないんですよ。そんで、「なんだよ〜ぉ。この指パッチン!」って言い返したんです。そしたら、「カメラ止めろ!」。激怒ですわ。それで収録が中断してしまったんです。
――
あららら。そこまでの事態に。
ぜん
そんでさらに吉本にクレームが入ったんです。社員の人らも大慌てで、「ぜんじろう、お前いったいなにやったんや! ポールさんがめちゃめちゃ怒ってるやないか!」って、えらい説教されてね。上岡師匠と紳助さんだけが、「かまへんかまへん。そんなもんなんぼでも言うたったらええねん」って慰めてくれはってね。ただ、そんなこともあって、東京で僕を売り出そうかって計画が、またアウトですわ。
――
はぁ、ほんと、うまくいかないですね〜。
   

こうして、ぜんじろうは島田紳助の高配むなしく、再び東京進出のチャンスをフイにしてしまう。しかし、紳助がぜんじろうを見抜いた目はやはり鋭く、正しかった。紳助が察知した「ぜんじろうに迫り来る機運」、それはのちに一大ムーヴメントとなって結実することとなる。次回、『テレビのツボ 開戦前夜』をお楽しみに。

  *河井さん 河合泉 元京都花月支配人。現ワイズビジョン代表取締役専務。明石家さんまがよくラジオで「河井人形」と呼んでいるのが、この人。見た目がひじょうにプリティなのだそうだ。
 
TEXT■吉村智樹 テープ起こし■泡の屑 撮影■おーしま2号 浪花の小池栄子
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