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| ■『グッバイ・エンジェル』で本当にグッバイ | |||||||||||||||||||||||||||
| ―― | 前回は漫才コンビ「かなめ・ぜんじろう」が数々の新人賞を受賞し、関西はもとより名古屋でもレギュラー番組を持つに至ったところまでお話をうかがいました。順風満帆ですね。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「ありがたいことに、名古屋で僕らの番組を作ってもらえることになりましてね。『グッバイ・エンジェル』(CBC)っていう番組でね。この番組でお客さんを笑わして、地固めして、次は東京へ、っていうのが吉本の考えだったんです」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | おぉ、東京進出も目前だったんですね。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「それがね……。そんなうまいこと、いきませんわ。テレビ番組にはよくあることなんですが、スポンサーが変わると番組の内容も変わるじゃないですか。育毛剤の会社が新たにスポンサーになりましてね。内容がお笑い番組から情報番組に変わったんですよ」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | 地方のテレビ番組は特にそうですよね。スポンサーの意向が、番組の内容に如実に反映しますもんね。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「そんで、育毛剤の会社の社長が生コマーシャルをやるというんでね。しかも、その育毛剤のウリが『毛根のないところに毛が生える!』(笑)。ありえへんでしょ?」 |
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| ―― | そんなもんあったらノーベル賞もんですよね。 |
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| ぜん | 「僕らテレビに出てたら、そんなんにも対応せなあかんでしょ? 僕は小賢しいタイプやから、『へ〜。ほんまですか〜。凄いですね〜』とか相槌を打ってたんです。ところが月亭かなめさんという人は、根っからの芸人気質なんですよ。芸人として100点なんですよ。いつなんどきでも笑わしたろうと思う人なんです。そんで、かなめさんの言うた言葉が、『そんなん、指先から毛ぇ生えるがな』(笑)」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | わはは。でもほんと、その通りですよね。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「客もボッカーンってウケてね。でもね、社長の顔を見たら、表情が曇ってるんです。そんで『番組を降りたい』って言いだしてね」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | それはえらいことですね! | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「ウン千万もの金を出してくれる人が『降りたい』って言わはって、大問題になってね。吉本の泉さんも『かなめ! お前、なに考えてんねん!』いうて激怒ですわ。ところが、かなめさんも言い返すんですよ。『なにがあかんのですか! ウケたじゃないですか!』と。俺らは人を笑わしに名古屋に来てる。そしてウケた。それのなにがいけないのかと」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | 芸人なのか、タレントなのか、踏み絵みたいな話ですね。かなめさんの気持ちも よくわかるし、どっちが悪いとかいう問題ではないですね。 |
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| ぜん | 「そんなんで、スポンサーを説得するかわりに、『かなめを降ろせ』っていう話に発展してね。そんで、『ぜんじろうは残れ』と」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | うわ、それもまた踏み絵というか、キッツイ話ですね。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「漫才師やったら、『相方が降ろされるなら、僕も辞めます』って言うのが普通じゃないですか。それやのに僕は『どうしようかな……』と迷ってしまったんです」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | いや、ぜんじろうさんの気持ちもわかりますよ。せっかくのチャンスですし。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「漫才師って微妙な関係なんですよ。相方は最大の味方であり、最大のライバル、敵なんです。相方の悪口を言われるとごっつ腹が立つけど、誉められてもムカつく。相方が活躍してたら気になるし、自分にだけ仕事があったら嬉しいもんなんです。これは漫才をやってないと、わからない心理なんですが……。そんで、僕だけ番組に残ったんです」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | うん。それは誰にも責められないことだと思いますよ。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「かなめさんは僕より2歳年上の先輩で、この人からお笑いのほとんどを教わったと思ってます。男気もあるし、尊敬してました。それに以前から、『ピンの仕事もどんどんやりや』って言ってくださったり、優しい方なんですよ。ただ……、今回は自分だけ降ろされたでしょう。それがえらいショックやったみたいで、鬱病になりはってね」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | 鬱病……。そこまで……。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「病院に通うようになって、薬を飲んではってね。いまでこそ鬱病いうたら一般的に知られた病気ですが、当時は僕、そんな病気があるって知らなかったんです。楽屋で、『もう、俺はあかん……』って、えらい沈んではって、僕は、『そんなことないです。元気出して、頑張ってください!』いうて励ましてしもうてね。鬱病の方を励ましたり、頑張れって言うたらあかんって知らなかったんですよ。そんで、よけいおかしなっていかはって」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | 励ましたつもりが、追い込んでしまったんですね。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「鬱になりはったら、ものすご暗いし、すぐキレるんですよ。舞台でえらいキレられたことあってね。なんもボケへんし、暗いから、『暗いなぁ』ってツッコんだんです。そしたら『悪かったな! お前はなんもわかってない!』言うて暴れだして」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | 漫才にならないじゃないですか。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「反対に、薬を飲んで躁になってるときは、めっちゃボケ倒すんですよ。ネタにないボケを山ほど言うんです。それに攻撃的になるんですよ。ツカミで『フィリピン人です!』っていうネタがあるんですけど、かなめさん、お客さんに向かって、『そうじゃ! 俺らフィリピン人じゃ! なに観とんねん!』いうてビビらせてね。心のバランスがおかしなってるんです。社員の人も怒って、『かなめ! お前、お客さんに向かってなんちゅうこと言うねん! お客さん、お前らのことほんまにフィリピン人やと思うとるやないか!』言うてね(笑)」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | わははは! 不謹慎ですが、それオモロイですね。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「吉本の社員も、かなめさんがおかしなってることに気がつきはじめてね。そういう噂って、広がるんですよ。かなめさんが包丁を持って客席から出てくるネタがあるんです。通路の途中で、『なに見とんねん』いうて、お客さんを脅かしながら。そんで舞台にあがってきて、『なんや、相方かい!』みたいな。そういうネタなんです。それやのに社員の方がそういうネタやって知らんもんやから、『かなめが包丁を持って舞台で暴れてる』っていう噂が広まってしもうて。かなめさんにしてみたら、『なんで俺ばっかり、そんなん言われなあかんねん』と」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | 人間って、へこんでる時に限って、悪い方へ悪い方へ行ってしまいますよね。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「ちょうどその頃、名古屋の番組もそうですし、僕だけMBSの『ヤングタウン』が決まったり、上岡龍太郎ブームもあって、『きっと弟子もおもろいやろ』いうて僕だけ番組に呼ばれたり、ツッコミの人間を重宝するブームみたいなんがありまして、僕だけ仕事が増えていって。反対にかなめさんは、もとからあったピンの仕事がたまたまその時、どんどん終わっていって。コンビが正反対になってきてたんです。そんなんで……遂にかなめさんが仕事場に来なくなったんです」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | あぁ、仕事場に来る気力さえ、失ってしまわれたんですね。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ■上方お笑い大賞 銀賞受賞の日に | |||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「当然、余興先からも吉本に苦情が来るじゃないですか。そんなんで、かなめさんの立場もさらにどんどんなくなっていって。そんときに読売テレビの『上方お笑い大賞』で銀賞(新人賞)をいただきまして」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | ABCに続いて読売テレビでも賞を! ああ、よかった。これで再び軌道に乗れたのでは? | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「いえいえ。自分たちでは、わかってたんですよ。ABCに続いて、この賞でも130Rさんと争ったんですが、自分たちが受賞をしたけれど、『笑いでは、130Rに負けてる』と。いまの自分たちの状態は付け刃で、ごまかしてるだけやと。本気になってない。賞はもらっても、実際は負けてたんやと」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | そんな……。 | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「それでこの賞をいただいたあと、かなめさんが、『ぜんじろう、ピンでやれよ』って言いはってね」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | え、それってもしかして、解散……。読売テレビの賞をもらった日にですか? | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「はい。解散ちゅうか……。『俺は1年ほど休んで、考えたい』って言わはって、それからもう来なくなったんです。解散っちゅう形は、取ってないんですけど」 | ||||||||||||||||||||||||||
| ―― | そうだったんですか……(絶句)。その後、かなめさんは、どうされたんですか? | ||||||||||||||||||||||||||
| ぜん | 「しばらくしてから八方師匠のもとへ戻られたと聞いたんですが、その後は、わ からないんです。なんやろ……芸人は時代に合わせていかなあかんけど、でも芸人って“狂気”でしょ? みんな常識はずれの、狂ったネタがやりたいんですよ。でも世の中が狂ってるから、逆に芸人に常識を求めるでしょう? かなめさんは、ほんまに“芸人”だったんですよ。そういう芸人気質のかなめさんと、時代が、合わんようになっていったんでしょうね」 | ||||||||||||||||||||||||||
こうして、かなめ・ぜんじろうは短い活動期間を終えた。かつて「芸人のやることやから、しゃーない」と思われた時代があった。そしていま、「公共の電波に乗っている人間が、なんてことを」と一般人以上にモラルを求められる時代。お笑いブームではあるけれど、決して「芸人」を認めようとしない現今は、果たしてお笑いにとって幸福な時代なのだろうか。ふと、そんな想いが頭をよぎった。 |
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TEXT■吉村智樹撮影・協力■零まどか 木の葉燃朗 |
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