第三回 師匠とその弟子 そして逃亡
■理不尽な弟子生活 悪夢に魘される日々
―― 上岡龍太郎さんに弟子入りされ、いよいよ“芸人”としてのぜんじろうがスター トするわけですが。
ぜん 「きつかったですね。よく鶴瓶さんや紳助さん、さんまさんたちが弟子時代のお もろい話をしはるじゃないですか。失敗談とか、師匠の意外な一面とか。でも実際 は、そないおもろい話はないですわ。師匠の家に通って、鞄を持って、兄弟子のお世 話もして、車で師匠を家まで送って……それの繰り返しでね」
―― 地味なんですね。
ぜん 「そうなんです。それに関西やから、そないスターに会えるわけやないでしょ う。会えるいうたら、ノックさん、藤本統紀子さん(評論家 藤本義一の奥さん)、 ノックさん、藤本統紀子さん、ノックさん、藤本統紀子さん、その繰り返し(笑)。 もちろんノックさんも藤本統紀子さんも関西の大スターやったんですけど、会える人 が同じ人ばっかりでね。単調でしたね」
―― 上岡師匠は厳しい方だったんですか?
ぜん 「いやいや、ものすご優しくしてくれはるんですよ。たとえば師匠が麻雀するで しょ。朝までやりはるから、僕は外の車で待ってるんです。するとね、師匠が『そん なとこおらんと中に入ったらええがな。寝ててもええで』って言ってくださるんで す」
―― なんて優しい人。ということは、単調とはいえ、決してしんどい弟子生活ではな かった?
ぜん 「それが、そうじゃないんですよ。師匠は大御所ですから、周りにマネージャー やお付きの人がたくさんいてはるんです。その人らに、めちゃめちゃ怒られるんです よ。師匠が『寝ててええで』って言わはるから、寝てるでしょ。そしたら、『なに寝 とんねん! 気ぃ遣え!』いうて。気ぃ遣えといわれても、どう遣うたらええねん、 と」
―― それは困りましたね。上岡師匠の仰ることを守ると怒られるだなんて。
ぜん 「すべてにおいてそうなんです。師匠がええと言わはったことをやったら、周り から怒られる。とはいえ師匠の言いつけは守らないかん。するとまた怒られる。もの すご理不尽なんですよ。だんだん、どっちの言うことを聞いたらええのか、わからん ようになってきて……。しまいにノイローゼになりましてね」
―― そうでしょうね。
ぜん 「夢に出てくるんですよ。怒られてるとこが。そのシーンが出てきたら飛び起き てしまう。『あ、夢やったんや……』って、寝汗ビッショリですわ。そんでまた寝 る、また夢に出てくる。一晩になんべんも。それが毎晩続いてね。だから寝るのが怖 くなってきましてね。あの頃は寝るのが一番キツかったですわ」
―― 精神状態がおかしくなってきてますね。
ぜん 「もう耐えられへんようになってね……逃げたんです」
―― と、逃亡ですか!
■逃亡、そして謝罪
ぜん 「師匠のもとを逃げ出して、ツレの家に半年間、泊まり込んでたんです。ここでもまたノイローゼですわ。『弟子って、なんや……』って、えんえん考え込んでしまって」
―― 逃亡しても、今度は別のノイローゼが襲ったんですね。
ぜん 「はい。そんで、『そうや、俺は上岡龍太郎が好きで弟子入りしたんや。周りがどう言おうが関係ない。理不尽がなんやねん。理不尽どんと来いや!』と、やっと思えるようになってきてね。師匠のもとに行って謝ろう、そんでもう一回、弟子をやらせてもらおうと思ったんです」
―― でもいったん無断で逃げ出したからには、そう簡単には戻れないでしょう? 破門になってるだろうし。
ぜん 「だから、謝りに行く時は、ものすご勇気が要りましたよ。自分を奮い立たせるためにウオークマンでBOΦWYを大音量で聴いてね。♪ホンキ〜 トンキ〜 クレイジ〜 アイラブユ〜 って(笑)」
―― ワハハハ。BOΦWYを聴きながら上岡龍太郎さんのもとへ。でも「ホンキー・トンキー・クレイジー・アイラブユー」って歌詞、まさに上岡師匠への偏愛を表してますよね。
ぜん 「そうそう。あとロッキー3のテーマね。アイ・オブ・ザ・タイガー。『俺も虎の目になるんや!』って自分に言い聞かせて(笑)」
―― ワハハハ。それで、上岡師匠には無事にお会いできたんですか?
ぜん 「関西テレビの前で師匠が来はるのを待ってたんです。ウオークマンをジャカジャカジャカジャカかけて。そこへ車がやって来て、師匠が降りてきはった。『いまや!』と思って走っていったら、師匠、逃げはったんです」
―― あ、やっぱりお許しにならなかった?
ぜん 「いや、『刺されるかと思った』そうです(笑)。そんで、『ま、中に入りぃな』って言ってくださって、関西テレビのロビーに通されて」
―― 久々の対面ですよね。
ぜん 「師匠にお詫びしましてね。『勝手に逃げ出して、すみませんでした! 毎日辛くて、会える人いうたらノックさんと藤本統紀子ばっかりで……』って言うたら……えらい爆笑されてね(笑)。『お前、誰に会えると思うてたんや(笑)』って。そんで、『また明日から、遊びに来る感覚でおいで』って言ってくださって、それで弟子に戻ったんです」
―― よかったですね〜。でもお訊きしてますと、本当に上岡師匠はお怒りにならないんですね。テレビのイメージと随分違う。
ぜん 「いや、師匠も怒るんですよ。ただ、他の人と怒るポイントが違うんです。たとえば、遅刻するでしょ。そんで『すんませんでした』って謝ると、ものすご怒らはる。遅刻に怒ってるんじゃなく、謝ったことに怒らはるんです。『謝んな! 笑かせ!』いうて。でも、そんな時に、そんな人、笑わせられます?(笑)。逆に厳しいですよ。謝ったらいかんのですから。『芸人なんて、そもそもハンパもんがなるもんや。品行方正な人間がやるもんやない。遅刻して当然や。遅刻した時に、相手がおもしろがる言い訳をするのがほんまの芸人や』って言わはってね。世間の非常識が、芸人の常識やと。遅刻したら、『向かい風やったんです』と言えと(笑)」
―― 上岡流がビシビシ伝わってきますね。
ぜん 「それからですね、師匠とほんまに交流ができるようになったのは。おもろい言い訳が思いついたら、わざと遅刻してましたもん。師匠もそれをすごい喜んでくれはって」
―― いい師弟関係ですね。羨ましい。
ぜん 「そんで弟子に戻って、師匠のお供でKBS京都に行ったんです。そこにサンテレビの人がいて、声をかけてきはったんです。『君、上岡さんとこの子か?』『そうです』『君、テレビ出ぇへんか?』『テ、テレビですか?』『そう。“大人の絵本”いう番組があってな。出てくれる若い子を探してるんや』って言わはるんです」
―― お、大人の絵本ですか!? 関西の青少年に多大すぎる影響を与えた、あの伝説のエロ番組ですか?
ぜん 「そうです。東京の読者の方に説明しておきますと、『ギルガメッシュナイト』のもっとゲスい版(笑)。なんせラブホテルで収録してますからね(笑)」
―― 『陽気なこびと』っていうラブホテルのCMが堂々と流れますもんね。「サンテレビに放送禁止用語はないんかい」と(笑)。でもあの番組は偉大ですよ。阪神大震災のときでも放送やめませんでしたからね。
ぜん 「その“大人の絵本”に出ぇへんかって言われたんですよ。『どんなコーナーに出るんですか?』って訊いたら、『愛染恭子さんと風呂の中でゲームして、勝ったら愛染さんのおっぱいなめられる』(笑)」
―― 愛染恭子さんのおっぱいを!? それ、すべての男の永遠の憧れじゃないですか!
   
   こうして、遂にぜんじろうにテレビ出演の話が舞い込んできた。テレビという名の “大人の絵本”の1ページを開いたわけだ。しかしこのテレビ出演が、のちにたいへ んな騒動を巻き起こすのである。
   
 
TEXT■吉村智樹 撮影・協力■零まどか 鈴々舎南風 木の葉燃朗
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